マーケティングにはいろいろな人間の行動心理を使えます。
人がどんな状況で、どんな反応を示すのかを理解してアプローチをすることで、マーケティングはうまく回りだします。
今回紹介する「プロスペクト理論」もその1つです。
これは買い手の行動を促すメッセージに活用できる行動心理なので、是非使いこなせるようにしてください。
行動心理については、こちらの記事で詳しく解説しているのでチェックしてみてください⬇︎
目次
プロスペクト理論とは
プロスペクトとは、期待や予測という意味です。
プロスペクト理論とは、伝えられ方で価値やリスクを正しく感じられなくなるという考え方です。
人にはこのような心の動き方があります。
プロスペクト理論による影響
- 得よりも損を避けたいと感じる
- 手に入る価値が大きくなるほど喜びは小さくなる
- 手にしている時は安定志向になる
- 失っている時はリスク志向になる
- 確率を正しく評価できない
プロスペクト理論には大きく2つの視点があります。
- 得よりも損を重視する
- 大きな確率を小さく見積もり、小さな確率を大きく見積もる
それぞれについてわかる実験があるので紹介します。
プロスペクト理論を証明する実験
視点① 得よりも損を重視する
あなたはとある大企業の重役です。
業績不振により、3つの工場と6,000人の従業員を失うことになりました。
次のプランのどちらかを選ばなければいけません。
プランA
3つの工場の内1つの工場と、2,000人の従業員を救える。
プランB
3つの工場全てと、6,000人の従業員を救える確率は3分の1だが、全て救えない確率は3分の2。
結果
80%の人がプランAを選びました。
期待値だけで考えれば、AもBも約33%救えるという確率になります。
プランA:工場1/3×100%=約33.3%、従業員2,000/6,000×100%=約33.3%
プランB:(工場3/3×3分の1)+(工場0/3×3分の2)=約33.3%、(従業員6,000/6,000×3分の1)+(従業員0/6,000×3分の2)=約33.3%
でも、ほとんどの人が1つの工場と2,000人の従業員を「確実に」救えるプランAを選んだということです。
「救える」とプラスの側面しか伝えていないプランAと比べて、「全て救えない確率は3分の2」とマイナスの側面を伝えているプランBは、避けたい結果として感じられたということです。
プラスの価値を「得」、マイナスの価値を「損」とした時、同じ金額であればマイナスの価値の方が2.25倍価値を感じるという実験結果もあります。
例えば
1,000円もらった時の喜びを1,000valueだとすると、1,000円失った時の悲しみは2,250valueになるということです。
深夜に突然インターホンが鳴って「10万円する最新型のタイヤが2万円で買えるセール中です!」と伝えられても無視するけど、「あなたの車のタイヤ(5千円くらい)が無くなっています!」と言われると飛び起きて外に出てしまう、という話があったりします。
それくらい私たちにとって、失うことを避けたいという感情は強いものです。
プロスペクト理論の1つ目の視点
得よりも損を重視する
視点② 大きな確率を小さく見積もり、小さな確率を大きく見積もる
先ほどと同じ状況のとき、次のプランのどちらかを選んでください。
プランA
3つの内2つの工場と4,000人の従業員が失われる。
プランB
3つの工場全てと6,000人の従業員が失われる確率は3分の2。
でも、全てを救える可能性が3分の1。
結果
82%の人がプランBを選びました。
工場と従業員を救える期待値は、先ほどのパターンと同じ約33%です。
なのに、結果はパターン1とは逆になりました。
不思議ですよね。
条件も結果として手に入る期待値も同じです。
でも、伝え方を変えただけで全く別の反応を示しました。
これが「プロスペクト理論」による効果です。
先ほどのパターンとの違いは、損失に着目させている点です。
パターン1の場合は、「救えるという価値」に着目させていました。
パターン2では、「失われるという損失」に着目させています。
パターン2では、プランAもプランBも避けたい結果であることに変わりはありません。
でも、プランBには3分の1で「救える」可能性が示されています。
多くの人が、その小さな可能性に対してポジティブな印象を持ち、プランBの方が賢い選択だと思ったということです。
プロスペクト理論の2つ目の視点
大きな確率を小さく見積もり、小さな確率を大きく見積もる
これがまさにプランBで起こっている現象に繋がっています。
3分の2、約66%の確率で全て失う可能性があるのに、残り約34%の確率で全てを救える可能性にかけようと思った人たちが、プランBを選んだ82%の人たちです。
高い可能性を低く見積もり、低い可能性を高く見積もった結果、「全員救えるんじゃない?」と感じた人が多かったということです。
これは、宝くじを買う人も同じです。
1等の当選確率は2,000万分の1と言われてます。0.000005%の確率と言われても想像できませんよね。
2,000万分の1というのは、5kg入り米袋80袋の中に1粒だけ当たりがあるのと同じです。
当たる気がしませんよね(笑)
私たちは低い可能性にかけて、奇跡を起こす逆転ストーリーを漫画やドラマなどでたくさん見てきています。
なので、小さな可能性でも成功できると思っているところがあるのだと思います。
でも確率で考えれば全て同じです。
逆に考えれば、宝くじで1等が当たらない確率は99.999995%ということになります。
ほぼ100%外れるということです(笑)
如何に人が合理性だけではない選び方をしているかが、この実験から分かります。
マーケティングでのプロスペクト理論の活用法
2つの実験パターンでは、同じ結果なのに、伝え方を変えただけで違う結果になりました。
伝え方だけで、相手の行動は変わります。
つまり、使い方次第では欲しいと思っていない相手に欲しいと感じてもらうことができるということです。
プロスペクト理論の力を利用したマーケティングアプローチについて紹介します。
恐怖訴求
損失のリスクを避けたいという感情に着目した訴求の方法です。
例えば
- 健康食品を売っているなら、「健康を損なえば、今のように楽しく外出ができなくなります。」
- 子供の学習教材を売っているなら「5歳までに子供の脳のベースができます。このチャンスを逃さないで。」
- 転職サービスを売っているなら「今のタイミングを逃すと、良い条件の求人は他の人のものになってしまいます。」
などと伝える感じです。
「今しかない」「これしかない」という希少性をアピールすることで、その特別なチャンスを手に入れられなくなる損失のリスクを前面に押し出したメッセージと届けると、見込み客は損をしたくないと感じて行動します。
希少性…珍しい。滅多にない。レアということ。
注意点
希少性を使いすぎて希少的ではなくなってしまうことには気を付けてください。
ずっとやってる閉店セールとかいつも半額の商品とかって、「ずっとやん。」て思いますよね。
不安の取り除き
「リスクリバーサル」という用語で知られている使い方です。
用語は覚えなくても良いので、不安を取り除くことで購入の後押しをすると効果的だということだけ覚えておいてください。
恐怖訴求は、損失のリスクを前面に押し出すことで、それを避けたい買い手の気持ちを引き出すものでした。
リスクリバーサルは逆に、損失のリスクを取り除いてあげることで、選びやすい状態を作るアプローチです。
例えば
- 返金保証
- 返品保証
- サポート
など。
特に、実際に手にとって試せないものや、高額な商品の場合は、損失のリスクを感じやすくなります。
なので、損をするかもしれない不安を取り除くことで、買い手の背中を押してあげることが効果的に働きます。
フレーミング効果
あなたがマーケティング使いとして活躍していきたいなら、「フレーミング効果」について扱えるようになってください。
フレーミング…物の見方の枠組みを与えること。
フレーミング効果とは、表現方法によって相手の物の見方が変わり、届けられた情報への感じ方が変わるというものです。
プロスペクト理論の実験の2つのパターンで証明されているように、ポジティブな側面に着目すれば確実な方が選ばれ、ネガティブな側面に着目すれば小さな可能性でも、それを避けられる可能性が選ばれます。
これは、ポジティブでフレーミングするか、ネガティブでフレーミングしたかの違いだと言えます。
ポジティブでフレーミングしたパターン
プランA
3つの工場の内1つの工場と、2,000人の従業員を救える。
プランB
3つの工場全てと、6,000人の従業員を救える確率は3分の1だが、全て救えない確率は3分の2。
結果
80%の人がプランAを選びました。
ポジティブでフレーミングしたパターンでは、マイナスの側面が表現されていなプランAが選ばれています。
ネガティブでフレーミングしたパターン
プランA
3つの内2つの工場と4,000人の従業員が失われる。
プランB
3つの工場全てと6,000人の従業員が失われる確率は3分の2。
でも、全てを救える可能性が3分の1。
結果
82%の人がプランBを選びました。
ネガティブでフレーミングしたパターンでは、プラスの可能性が表現されたプランBが選ばれています。
ポジティブ、ネガティブ以外にもフレーミングの方法はありますが、ポジティブとネガティブがシンプルでパワフルなフレーミングのやり方なので、ぜひ使えるようになってください。
プロスペクト理論とは|マーケティングで使える行動心理 まとめ
プロスペクト理論とは、伝えられ方で価値やリスクを正しく感じられなくなるという考え方です。
プロスペクト理論による影響
- 得よりも損を避けたいと感じる
- 手に入る価値が大きくなるほど喜びは小さくなる
- 手にしている時は安定志向になる
- 失っている時はリスク志向になる
- 確率を正しく評価できない
プロスペクト理論には大きく2つの視点があります。
- 得よりも損を重視する
- 大きな確率を小さく見積もり、小さな確率を大きく見積もる
マーケティングで活用する時のポイント
プラスの結果が手に入ることを伝えたい場合は、プラスの結果が確実に手に入るということをアピールして、失う可能性について伝えないようにすると選ばれやすくなります。
損失のリスクに目を向けさせないということですね。
マイナスの結果になる可能性が高い場合は、マイナスの側面を前面に出しつつ、プラスに転じる小さな可能性を示すことで選ばれやすくなります。
そもそもマイナスな状況の中で、一筋の光を差し込ませるイメージですね。
人はその小さな光に期待を寄せたくなります。
特に、買うかどうかを決めてもらうクロージングのタイミングで使うと、より効果を発揮してくれます。
マーケティングは買い手の気持ちを動かして、売り手の望む行動をとってもらう活動です。
そのために行動心理は活用できます。
中でも「プロスペクト理論」は、大きな影響力を持つ考え方として実際にもよく活用されているので、是非使いこなせるようにしておいてください。
行動心理についてもっと知りたい!という方は、この本を是非チェックしてみてください!
たくさんの行動心理がわかりやすく紹介されているのでおすすめです⬇︎