マーケティングは、ターゲットの意識と行動の変化を起こして、顧客になってもらうための仕組みを作る活動です。
売る相手にどういう意識の変化があれば、どういう行動の変化を起こしてくれるのかを知ることで、マーケティングがしやすくなります。
今回は、マーケティングでよく活用されている行動心理の1つ「返報性の原理(返報性のルール)」についてお話しします。
行動心理…特定の状況で似たような心理状態になる傾向のこと
行動心理のはたらきを利用して、顧客の購買行動を促すように仕向けることができます。
マーケティングではターゲットの状態を変化させることで、それによって起こる心理状態の変化を利用します。
「ある心理状況なら、こういう行動をとる」を利用して、「こういう行動を取れば、こういう心理状況になる」を意図的に作るということです。
行動は意識から生まれるが、意識は行動から生まれる
行動心理については、こちらの記事で詳しく解説しているのでチェックしてみてください⬇︎
目次
返報性の原理とは
返報性の原理とは、「何かしてもらったら、お返しをしたくなる」という行動心理のことです。
返して報いたい性質ですね。
例えば
- 友達から旅行のお土産をもらったら、自分が旅行に行った時にお土産を買ったり
- ご飯をご馳走してもらったら、次は自分がご馳走しようと思ったり
- 仕事を手伝ってもらったから、今度は自分が手伝ったり
など。
恩を受けたら、恩返しをしたいと感じるのが、人間の基本性質です。
それを証明した実験をご紹介します。
返報性の原理を証明する実験
美術鑑賞をして作品を評価するという実験に、2人1組で大学生に参加してもらいました。
1人は仕掛け人、1人は被験者です。
AパターンとBパターンの2回の実験をしました。
Aパターン
実験の休憩時間中、仕掛け人が2本のコーラを買ってきて、そのうち1本を「君の分も買ってきたよ」と言って与える。
Bパターン
実験の休憩時間中、仕掛け人は何も親切をしない。
実験が終わった後、仕掛け人は被験者にお願いをします。
「新車が当たるくじを売っているのですが、買ってもらえませんか?1枚25セント(25円くらい)なのですが、何枚か買ってくれませんか?」
結果
Aパターンの被験者は、Bパターンの被験者と比べて2倍の枚数のくじを買ってくれました。
ー心理学者デニス・リーガンの実験ー
「親切にされなくても、相手に良い印象を持っていたらお願いを聞くこともあるんじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、実験前の仕掛け人に対する被験者の好感度と購入枚数の間には、相関関係はありませんでした。
相関関係…AとBの事柄になんらかの関連性があるもの
つまり
相手のことを好きか嫌いかは関係なく、人は何かしてもらうとお返しをしたくなるということです。
返報性の原理の威力
返報性の原理のパワフルな点は、相手への好感度は関係ないということです。
嫌っている相手、できれば関わりたくない相手だとしても、何かをしてもらったら何かを返さなければいけないと感じるところです。
ここで生まれる「お返しへの義務感」が返報性のルールに力を与えています。
嫌いな相手を喜ばしたいと思う人はいませんよね。
でも何かプレゼントされたら、そのままにしておくことを気持ち悪く感じます。
相手にお返しして喜ばせたいという感情ではなく、「借りを作ったままの状態が嫌だからお返ししておきたい」という発想になります。
お土産の渡し合いとか延々と続いてしまいがちですよね。
純粋に相手を喜ばせたいと思ってプレゼントするなら良いですが、義務感で続けているのはお互いにとってハッピーではないので、どちらかが止める勇気を持った方が良いと思います。
返報性の原理のマーケティングへの活用法
返報性の原理は、マーケティングでもよく活用されています。
わかりやすいのがスーパーの試食です。
ソーセージとかジュースとかを売り場でもらったことありませんか?
子供の頃は、いろんなものが食べられるので食品売り場が好きだった人も多いと思います。
試食という売り手から受け取るプレゼントによって、買うつもりがなかったソーセージやチーズなどを買ってしまう人がたくさんいます。
買う側としては、「味見して美味しかったから」という理由で買ったと思い込んでいる人もいると思います。
でも「美味しかったから」という理由を引き出すきっかけとなったのは、「もらったままでは気持ち悪い」と感じさせる返報性の原理の力です。
知らず知らずのうちに私たちは、企業の仕掛けた返報性の罠にかかってしまっています。
返報性の原理を活用する注意点
返報性の原理には1つ注意点があります。
それはプレゼントを受け取った相手が、それをプレゼントと感じなければ、返報性の原理の力が発動しないということです。
例えば
食品売り場で試食できることが当たり前と思っていれば、プレゼントを受け取ったとは感じませんよね。
むしろ試食できないことに対して、サービスが悪いなどとマイナスに感じたりします。
業界では当たり前になっているやり方は、それを受け取る相手にとっては当たり前のものになってしまいます。
なんでもそうですが、その手法がなぜ効果的なのか、どういう状況下において効果を発揮するのかを分かった上で、その手法に取り組むようにしてください。
返報性の原理の力を応用してマーケティングに活用する方法
「何かをされたら、そのままにしておくことができない」
これが返報性の原理の根幹にあるものです。
これを応用したのが「拒否されたら譲歩」という方法です。
返報性の原理の力によって、相手からの提案を断ったら、「悪いな」という気持ちになります。
そのモヤモヤを晴らすために、譲歩した提案を受け入れてしまうという性質を利用する方法が「拒否されたら譲歩」です。
例えば
子供に3000円のおもちゃをねだれられて断ったとします。
子供は残念がり、あなたは少し「悪いことをしたかな」という気持ちになっています。
そして、レジの近くにある300円のおもちゃ付きのお菓子をねだられたら、「まぁ、これならいいか」と思って買ってあげました。
この感情と行動の流れは実際に起こりそうですよね。
別におもちゃを買ってあげると約束したわけでもなく、一方的に相手が買ってくれと言い出しただけなのに、何かしてあげないと悪いという気持ちになって買ってしまっています。
多くの人が最初の相手の要求を断った後、より小さな要求を「せめてものお返し」として受け入れてしまいます。
売り手はこの行動心理を逆手にとって、最初は断られそうな要求を出し、そのあとで受け入れてもらえそうな要求を用意していたりします。
営業のテクニックなどでよく紹介されている方法でもあります。
買い付けに慣れている人は、そのことを知っているので、最初から値引きを吹っかけたりします。
できるだけ高く売ろうとする側とできるだけ安く買おうとする側の勝負のような考え方をされていたりしますが、こういうやりとりって無駄なところに労力をかけてる感じがしますよね。
売り手がやっていることの裏側を知ると、ずるいなと感じるかもしれませんが、返報性のルールの力を使えばこういうこともできてしまいます。
本来買ってもらいたい商品を買ってもらうために、あえて相手に拒否されるような商品をまず提案するというのは、ビジネスの現場でもよく使われているやり方なので、知っておいてください。
返報性の原理とは|マーケティングで使える行動心理 まとめ
返報性の原理(返報性のルール)とは、何かをしてもらったら、何かをお返ししないといけないと感じる人間の心理です。
マーケティングではこの行動心理がよく活用されています。
実際の商品をお試しできるトライアル品だけでなく、役に立つ情報も無料のプレゼントだと考えられます。
これらは返報性のルールを働かせるためには効果的ですが、同じプレゼントが一般的になりすぎている業界では、買い手がそれをプレゼントだと思わず、当たり前のサービスだと感じていることもあります。
食品売り場の試食をプレゼントと感じるか、当たり前の権利だと感じるかの違いです。
そうなれば、返報性の原理の力は弱まります。
なので、買い手が「え!?もらっても良いの?!」と思うようなプレゼントをあげるようにしてください。
返報性の原理の応用編「拒否されたら譲歩」
相手の提案を拒否したら、相手に対して悪いことをしたなという感覚を持ちます。
その時、自分にできる範囲のお返しをしたいと感じます。何も悪いことをしていないにも関わらず。
その時、売り手はより小さな商品を提案すれば、相手は返報性の原理の力によって、あなたの提案を「それくらいなら」と受け入れてくれます。
行動心理を活用したアプローチの仕方は、ずるいと感じられるものが多いですが、買い手本人が納得して購入しているのは間違いありません。
返報性の原理によって生まれた購買行動だったとしても、そこには満足した2者がいるだけです。
買い手にプレゼントできるものはないか、一度断られた後に提案できるものはないかを考えてみてください。
返報性の原理についてもっと詳しく知りたい方にオススメの本があります!
マーケティング使いのバイブルになる1冊なので、是非GETしてみてください⬇︎