「顧客の課題を解決できる商品なのに売れない」
そう感じてる企業は多いです。
見込み客は目の前にある商品を買うかどうかを決める時に、いろんな判断基準を持っています。
その中でも一番大事なのが「自分の課題を解決するためのベストな商品なのか」ということです。
すべての企業が何らかの課題を解決するために、その商品を作って提供してます。
なので、どうしても似たような商品が市場に出てきます。
その時、買い手は目の前にある商品の中で、自分にとってベストな商品がどれかを選ぼうとします。
結果的に、みんなが同じ商品を選ばないのは、人それぞれ「価値観」が違うからです。
良いも悪いも人によって感じ方が違います。
今回は、商品の購入に影響を与える人の価値観について、その力のマーケティングへの活かし方についてお話しします。
目次
価値観とは
価値観の意味
価値観とは、その人の物の見方や判断の基準となる考え方のことです。
「こういうものは悪い」とか「こういうものは自分に合っている」とか、人によって良い悪いや好き嫌いの判断があります。
例えば
- 嘘をつくのは悪いことだ
- 相手を傷つけない嘘なら良い
- 人を外見で判断してはいけない
- 人は見た目が重要だ
- みんなが持っているものが良い
- 自分だけが持っているものが良い
- 安いものを選ぶ
- 高くても質の高いものを選ぶ
など。
人は、その人の持つ「価値観」によって、出来事を理解して判断しています。
なので、相手の価値観に寄り添った価値やコミュニケーションを届けることで、商品は売れるようになります。
ですが、価値観は人それぞれなので、個人個人の価値観に寄り添ったアプローチをすることは簡単ではありません。
まずは、なぜ価値観の違いが生まれるのかについてお話しします。
価値観が人それぞれ違う理由
価値観は、その人の経験から作られます。
主に、過去の実体験によって作られます。
例えば
- テーマパークでデートをして振られた経験のある人は、テーマパークをデートする場所に選ばない
- 赤い色の服を褒められた人は、赤い色のアイテムを選ぼうとする
- 通販で失敗した人は、店頭で手にとってから商品を買う
など。
過去の成功体験や失敗体験によって、自分の中の「有り・無し」がデータとして蓄積されていき、何が「正しい判断」なのかが形作られていきます。
もう一つ価値観に影響を与えるのが、周りからの情報です。
自分自身が体験していなくても、影響力のある相手がそう言っていたり、そういう行動をとっていると、その発言や行動が自分の中の「正しい判断」として刷り込まれます。
例えば
- TVで報道されていることを自分の意見として発言したり
- 好きな有名人が好きだと言っているものを、自分も好きだと感じたり
- 休みなく働いている上司を見て、それが仕事のあり方だと思ったり
自分の周りで起こっていることも自分の経験として感じて、価値観を作る材料とする傾向があります。
これがメディアが力を持っている理由です。
たくさんの情報を浴びせかけることで、あたかもそれが真実であったり、自分に関係のある話だと感じさせることができるからです。
価値観の原動力となる「アイデンティティ」
価値観は、その人の経験から作られます。
ですが、自分の意思で作られている側面もあります。
人は「自分はこういう人間だから、こういう判断をする」という考えに基づいて行動しています。
例えば
- 私はセンスが良い人だから、他人の真似をしない
- 私は人生を無駄にしない人だから、時間を節約するためならお金を惜しまない
- 私は身体を気遣う人だから、添加物の入ったものは選ばない
など。
この「自分はこういう人間だ」という感じるものを「アイデンティティ」と呼びます。
人には、自分が「こうである」と信じていたり、「こうありたい」と願っていることに、自分自身の行動を結びつける傾向があります。
つまり、人は自分自身の「アイデンティティ」を証明するための行動をとると言えます。
そしてそれは、商品を買う行動にも表れます。
「自分はこういう人間だから、あれではなくこれを買う」というように。
ブランド物を身につけまくる人、旅行に行きまくる人、資格を取りまくる人、全てアイデンティティがそうさせています。
この買い手の「アイデンティティ」の力を使うことで私たちマーケターは、買い手の「買いたい気持ち」を作り出すことができます。
では、どうやれば良いのか?
価値観の力を利用する方法についてお伝えします。
自動的に選ばれる商品にするアプローチ
買い手の価値観にあった商品を提供できれば買ってもらえます。
ですが、相手がどんな価値観を持っているのかを、1人1人聞いて回るわけにもいきません。
なので実際には、価値観のパターンを想定して、どういう顧客に買ってもらいたい商品なのかを決めます。
例えば
- 高くても品質の高いものが良いという価値観
- とにかく安いものが良いという価値観
- シンプルなデザインが好きという価値観
- カラフルなデザインが好きという価値観
- 使いやすいものが良いという価値観
- 使いにくくてもデザイン性のあるものが良いという価値観
など。
これは一般的な売れる商品にするためののアプローチなので、そこまで難しい考え方ではないと思います。
今回お伝えするのは、さらに突っ込んだ「アイデンティティへアプローチする方法」です。
買い手のアイデンティティへアプローチする方法
「私はこういう人間だ」と思っている人が、「自分のあり方を証明するためには、あなたの商品を手に入れなければいけない」と感じたら、必ず買いたいと思います。
この状況を作り出すのがこの「アイデンティティへアプローチする方法」です。
「そんなこと本当にできるの?」と思いますよね。
それができることを証明した実験があるので紹介します。
アイデンティティの力を利用して人の行動を変えた実験
仕掛け人が住宅街を訪れ、家の前に「安全運転をしよう」というメッセージの看板を立てさせてほしいと、各家庭に依頼をしました。
Aチームの仕掛け人
玄関先に「安全運転をしよう」という看板を立てさせてほしいとお願いをしました。
すると、17%の家庭がOKしてくれました。
Bチームの仕掛け人
「この地区を美しく保とう」という嘆願書に署名をお願いして、
その2週間後に「安全運転をしよう」という看板を立てさせてほしいとお願いをしました。
すると、嘆願書にはほぼ全ての家庭が署名をしてくれ、約半数の家庭が看板を立てることをOKしてくれました。
Cチームの仕掛け人
玄関先に「安全運転をするドライバーになろう」という小さなシールを貼らせてほしいとお願いをして、
その2週間後に「安全運転をしよう」という看板を立てさせてほしいとお願いをしました。
すると、ほぼ全ての家庭がシールを貼ることをOKしてくれ、76%の家庭が看板を立てることをOKしてくれました。
小さなお願いを聞くと、次の大きなお願いを聴きたくなるという人間の行動心理が表れているのが、AチームとBチームの結果に差がでた理由です。
行動心理学については、こちらの記事で詳しく解説しているのでチェックしてみてください⬇︎
今回着目していただきたいのは、BチームとCチームの結果の違いです。
どちらも小さなお願いから大きなお願いをすることに違いはありません。
でも、結果は約半数と76%という大きな違いが生まれています。
この違いを生み出したのが「アイデンティティ」の力です。
「安全運転をするドライバーになろう」というシールを貼った人たちは、自分の玄関でそれを表明しているので、その表明に沿った行動を取ろうという力が働きました。
この時、「私は安全運転をするドライバーであり、それを周りの人にもおすすめする人だ」というアイデンティティが作られたと言えます。
そして人には、「自分が決めたことをやり通したい」という心の動きがあります。
「一貫性の法則」と呼ばれるものですが、一度決めたことをやり通さないと気持ち悪く感じるので、過去の判断に従って行動をとる傾向があります。
作られたアイデンティティと一貫性の法則の力によって、「安全運転をしよう」という看板を立てることも、自分の意思に沿った行動だと感じて、看板を立てることを多くの人がOKしたと考えられます。
もしこの実験の大きなお願いが「家の前にゴミ箱を設置させてください」だったら、「この地区を美しく保とう」と署名したたBチームの人たちの方が、より多くOKする可能性が高いと言えます。
最初の小さなお願いによって、今まで持っていなかった小さなアイデンティティが生まれ、そのアイデンティティに沿った大きなお願いをきくことが、自分のとるべき選択だと感じる、ということがこの実験からわかります。
マーケティングで価値観の力を使う方法
買い手の価値観に合わせた価値提供やコミュニケーションを行うことは、マーケティングにおいては基礎的なやり方です。
私たちが1つ上のステージのマーケターになるためには、「アイデンティティ」と「一貫性の法則」の力を活用できるようにならなければいけません。
「あなたの商品を買うことが、自分が自分であるための選択だ」と感じてもらうために、小さなアイデンティティを生み出し、そのアイデンティティに沿った選択肢として、あなたの商品を届けるようにします。
具体的で手っ取り早い方法は、お試し商品を販売することです。
一度その商品を選んだら、「自分のアイデンティティを表現するために、その商品を買った」と感じるのと同時に、自分の選択に「一貫性を持たせたい」という力が働き、本商品を買いたくなります。
応用編としては、買いたいと思っていない相手のアイデンティティにアプローチして、買うことが自分を表す行動だと感じてもらうことです。
例えば
服装に拘らない人にお洒落な服を買ってもらいたい場合、「自分はお洒落な人だ、だからお洒落な服を着る」というアイデンティティが必要になります。
その時、「あなたはお洒落な人なので、モデルに選ばれました」という話をしたら、「自分はお洒落なんだ」という自覚が生まれます。
モデルに選ばれて、お洒落に仕立て上げてもらって撮影をした後、その時の自分を見たその人はどういう行動に出るでしょうか?
おそらくその後も、お洒落な自分であることを証明するために、お洒落な服を買ったり、身嗜みを整えたりしだすと思います。
つまり、小さなアイデンティティを作り出すというのは、実体験をさせることです。
何かを体験すれば、その経験によって価値観が作られます。
それを意図的に作り出していくのが、私たちマーケターがやるべきことです。
買わない相手に買ってもらう方法|価値観とアイデンティティ まとめ
商品を買ってもらうためには、あなたの商品を買うことがベストな選択だと思ってもらう必要があります。
そのためには、買い手が何を良いとして、何を悪いとするのかの判断基準を知らなければいけません。
その物事の判断基準のことを「価値観」と言います。
価値観は過去の体験や、信用する相手からの情報によって作られます。
そして、人は「自分はこういう人間だ」という自己評価によっても、物事を判断しています。
これを「アイデンティティ」と言います。
あなたの商品を買うことが、顧客のアイデンティティを証明することに繋がるのであれば、その商品は買ってもらえます。
なので、私たちマーケターは、あなたの商品を買うことに繋がるアイデンティティを、ターゲットの中に作り出すことで、商品を買ってもらえる状況を作れるということです。
そのための方法が、「自分はこういう人間だ」と感じさせる体験をさせることです。
お試し商品でも、体験レッスンでも、小さな行動の依頼でも構いません。
ターゲットが「自分はこういう人間だ」と感じられば、その先にある「自分という人間を証明する物」として、あなたの商品を捉えてくれるようになります。
その時、買われない商品は買われる商品へと変化すると言えます。